2018年8月29日水曜日

万能鑑定士Qの謎解き

万能鑑定士Qの謎解き

著者  松岡圭祐

新たな知識を求めてこの本と出逢う。

中国がからんでくる。

最近の出来事とリンクしていて、リアリティがある。

骨董品の知識が折り混ざっており、勉強になる。

あなたにはどんな一行が届き、どんな言葉が残りましたか?


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Qシリーズ第20巻、Q&α第25巻特別記念作

幾多の人の死なないミステリに挑んできた凜田莉子。彼女が直面した最大の謎は大陸からの複製品の山だった。しかもその製造元、首謀者は不明。仏像、陶器、絵画にまつわる新たな不可解を莉子は解明できるか。


解 説 神谷竜介(編集者)

該博な知識と論理的思考を武器にさまざまな事件・犯罪を解決してきた美貌の鑑定士、凜田莉子。
卓越した観察眼と分析力で絵画に彫刻、骨董、宝飾品やブランド品、果ては卵の新鮮さ(! )までを鑑定する彼女は、これまでも盗難されかけた五億円のダイヤモンドペンダントや名画モナ・リザを守り、あるときはパリのレストランを営業停止の危機から救ってきた。
その莉子が本作で対峙するのはなんと中国、現在、一九七二年の国交正常化後、最低とまで言われる政治的緊張状態にある中華人民共和国である。
ともに奈良時代前後に製作され、かたや日本の福岡にある弥勒菩薩像、そして中国・北京にある瓢房三彩陶。
いずれの文化財も日中が自国起源を主張、返還を求めたため、両国の学会の対立はエスカレートし重大な外交案件となりかけていた。
そこで一部の政治家と研究者が交渉にあたり、日中の中間である東シナ海上で両国の専門家による非公式な“洋上鑑定"が行われることになる……。
物語の導入を読んで今更のように感じるのは、時代と切り結ぶ松岡圭祐という作家の膂力の強さである。
日中関係の緊張や、中国の情報発信・広報戦略のうまさ、つねに後手後手にまわりがちと思われる日本の対応など、多くの日本人が日頃、多かれ少なかれ感じている苛立ちをストーリー中にいやらしいほど効果的に織り込んでくる。
それでいて、日本人が中国側に抱く思いだけでなく、中国側から日本がどう見えるのかについてもきちんと描きだす視座を持っているところが、作者の卓抜した力量を示していると言えるだろう。
これだけ政治的メッセージを含んでしまいがちなテーマを、バランスを欠いたイデオロギー論や感情論を交えることなく、極上のエンターテインメントに仕立て上げるその腕前には感歎するほかない。
日中の衝突についても、こうしたボタンの掛け違いが生み出す齟齬は決して小さなものではない。
その意味でも、文化財の起源と返還問題をはじめ、今日、日中両国間に横たわる多くの難問に対して本作の投げかける温かく前向きなメッセージは重く、それが一人でも多くの読者に届くことを望んでやまない。
本シリーズをいわゆる「日常の謎」系のミステリとして分類する向きもあるようだが、これまで述べてきたような理由で私はどうしてもその説を採れない。
つねに時代性を意識した作者の問題関心は、あたかも現実社会を捨象したような、身のまわりの風景の中で完結した「日常系」とは明らかに一線を画しているからである。
作者もそうした作品群と一括りにされることは望んでいないのではないだろうか。

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